流通チャネルとは、マーケティング・チャネルとも呼ばれ、生産者(製造業者)により生産された「製品」を消費者のもとに届けるまでの一連の流れ(流通経路)の中に関わる全ての業者の事になります。
それぞれの業者(チャネル・メンバー)が、一連の流れ(流通経路)に介在する事により、円滑に、また効果的に消費者のもとへと届けられ、その一連の流れ(流通経路)を最適にするため、チャネル・メンバーを選定し組み合わせていく事を流通チャネル政策(マーケティング・チャネル・システム)と呼ばれます。
つまり、流通チャネル戦略は「製品」の最適な販売ルートを構築していく戦略になります。
流通チャネルのフロー(流れ)と機能
流通チャネルを最適化する事で、生産者と消費者間の様々なギャップ(時間、場所、所有権、情報、金銭、質、量など)を解消し、生産者と消費者を結びつける機能や役割を果たします。
もし、製造業者が直接販売し、流通業者(生産者以外で流通にかかわる全ての業者)が介在しない場合、図のように製造業者が東京に拠点を置いていたとしたら東京にいる消費者Aは近いので買いに行く事が出来ますが、消費者A(沖縄)消費者B(大阪)は、場所(場所のギャップ)が遠いので容易に買いに行く事が出来ません。
仮にインターネットなどの通信販売で、同じ時期に消費者が購入したとしても、購入者の「場所」が違えば製品が届くまでに時間差(時間のギャップ)が生じ、消費者に対し優劣がついてしまいます。
流通業者が間に介在した場合、消費者は各小売店から購入する事が可能になり、時間、場所などのギャップを解消する事が出来ます。消費者は各小売店から購入する事が可能になり時間、場所などのギャップを解消する事が出来ます。
さらに、消費者だけではなく、製造業者や流通業者にとっても利便性が高くなります。*参照コスト志向の価格設定価格戦略
また、流通チャネルには、主に情報流通(情報流)と商的流通(商流)、物的流通(物流)のフロー(流れ)を考える事になります。
*図は、あくまでも一例です。
商品の流れでは直販の場合、製造業者⇒運送業者⇒消費者やデジタル・コンテンツだと製造業者⇒消費者などもあります。
①商的流通の機能(商流)
主な機能として、受発注後の所有権や金銭(支払い、回収)の流れなどになります。
製品その物の流れではなく「所有権」なので、間に入る運送業者は移行手段になるので含まれません。
図の例では、製造業者⇒卸売業者⇒小売業者⇒消費者になっていますが、製造業者⇒小売業者⇒消費者や製造業者⇒消費者なども考えられます。
金銭の流れは、直接支払うのか、金融機関を使った決済なのかで、また運送業者への支払いは、どちら側が支払うかで変わってきます。
消費者側の視点に立ち、購入に至るまでや支払い法方が簡単などを考え機能させる必要があります。
②物的流通(物流)
製品その物の流れになり、機能としては時間、場所、質、量の利便性になります。
例えば、近くに小売店があり購入が楽、配送されるまで短い時間で済む、在庫切れがなく購入者の期待を裏切らない、食品などであれば、鮮度がよい状態で売られるあるいは届くなどが考えられます。
それらを担う業者として、小売業、配送業、卸売業、倉庫業などが、各地に分布する事で製造者と消費者を結び時間、場所、質、量などの利便性を発揮しています。
また、在庫の保管、保存などを行う倉庫業を卸売業が兼業する事もあります。
③情報流通(情報流)
製品情報や広告、消費者のニーズやウォンツ、要望あるいは代金の支払情報なども含み、どのような伝達ルートを設けるかなどになります。
例えば、
・製造業者がホームページを設けたり、小売業者が店頭あるいはホームページで広告する
・製品に不良や故障があった場合、メーカーに問い合わせ、迅速に運送業者が回収に来る
など様々な情報伝達に関する事柄になります。
流通チャネル政策の策定
流通チャネルは、様々な要因で異なり「何が最適か」はその要因によって決定する事になります。
例えば、どんな製品を扱うのか、資本力、参入する市場の特性、規模、競争業者の特性や状況など、外部要因と内部要因によって様々です。
それらを踏まえた上で、以下の事項を決定していきます。
①流通チャネル長さ(段階数)の決定
長さとは、どの段階レベルまで流通業者を介在させるかになります。
1)消費財の流通チャネル
製造業者によって生産された製品が、消費者へと届くまでの間にチャネルメンバーが介在するか、しないか、あるいは介在した場合の介在数をどの程度にするかなど検討していく事になります。
製造業者が直接消費者へ販売する0段階は、ダイレクト・マーケティング・チャネルとも呼ばれます。
例えば、自家製のジャムを、自社で瓶詰めし、パッケージをし、店頭やインターネットで販売するなどの「製造業者の直営店」にあたります。
企業の多くは「時間、機能、所有」のギャップを埋め、より早く正確に消費者のもとへ届けるため、間に業者を挟む多段階の流通チャネルを構成します。
2)生産財の流通チャネル
1つの「製品」として成り立つまでの過程においての流通チャネルになります。
簡単に説明すると「①消費財の流通チャネル」の「製造業者」に辿りつくまでの段階で、どのような経路を構築していくかを決定する段階です。
例えば、ペットボトルの飲料品を消費者までに届ける段階で説明すると、
- 「プラスチックの原材料からペットボトルを生産する製造業者」
- 「生産されたプラスチックの卸売業者(生産財の流通業者)」
- 「ペットボトル飲料品を生産する製造業者(メーカーなど)」
- 「ペットボトル飲料品の卸業者(消費財の流通業者)」
- 「ペットボトル飲料品の小売業者」
- 「消費者」
②流通チャネルの幅(数)を決定
どの段階を採用するかを決定したら、その段階において「どんな業者が適しているか、また必要な業者の数は」など決定していき、主な方法として3つに分けられます。
1)開放的流通
この様な開放的流通経路が用いられる場合、低価格製品の「最寄品」などに多く、取引業者を限定せず、出来るだけ多くの卸売業者や小売業者と取引を行います。
販売広域を広げ、多くの消費者にどこでも購入できるようにし、売り上げ拡大を図ります。
ただし、取引業者を開放的にし製品の取扱業者を増やすと言う事は、流通網も複雑になり流通のコントロールが難しくコストも大きくなります。
また、売れなければ大きな損失にも繋がるので、取扱業者同士の販売競争も激しくなり、値下げ合戦が起こる可能性も考慮する必要があります。
また、もしも製品の不備や不良が発覚し、自主回収する事になればさらなるコストと回収までの時間も掛ってしまう場合もあります。
2)選択的流通
これは、不特定多数の取引ではなく業者を選択し取引を行う方法で、取引業者を選択する様々な基準を設け、それに値する業者と取引をするなどになります。
この場合、流通のコントロールもしやすくコストも開放的流通に比べると小さくなるが、販路も縮小されるので、他社製品との差別化は重要になります。
3)排他的流通
この様な排他的流通経路が用いられる場合、高価格の「専門品」や「回収品」などに多く、取引業者を少数、あるいは1つだけに厳選し契約する方法(独占販売権を与えるなど)になります。
*独占販売権:製品を販売する事が出来る権利の事です。 「正規販売店」は販売権が与えられ公認された店で、 「非正規販売店」は、販売権を与えられていない非公認の店になります。例えば、「正規販売店=信頼性が高い」「非正規販売店=信頼性が低い」
ブランド・イメージを損なわないために、製品に対し高水準で専門的な知識を持つ取引業者を厳しく厳選し強いパートナー・シップを結びます。
例えば、かつてApple社の「iphone」は、日本においてソフトバンクが独占販売権を与えられていました。
この様に、販路を限定し「どこでも簡単に手に入れる事が出来ない」事で、ブランド価値を保ち、かつ購入意欲を促進させるなどの戦略を図ります。
チャネルの統合とシステム
流通チャネルを構成し、円滑に機能させていくため、様々な形態でシステム化し、それを統合していく事が必要になります。基本的には4つのシステム形態に分けられますが、形式的に囚われず時として時代や状況に応じて発展させていく事が望しいと考えます。
①伝統的マーケティング・チャネル
これは、製造業者、卸売業者、小売業者が統合的に連携されていなく、各業者がそれぞれ自律的に、決定、行動を行います。
お互いのシステムや経営に干渉する事はなく「流通システムの最適化」よりも「自社の利益を最大化」する事を目的とします。なので取引関係も強固なものではなく、自社以外のチャネル・メンバーをコントロールする事は難しいものになります。
②垂直的マーケティング・システム(VMS:Vertical Marketing System)
これは、製造業者、卸売業者、小売業者が統合的に連携され、流通チャネル全体を1つのシステムととらえ機能させる仕組みを作ります。
意思、意見の衝突が起きないように、リーダー的役割を果たすチャネル・キャプテンの存在が必要になります。
また、垂直的マーケティング・システムには主に3つの体系があります。
1)企業型VMS
生産から流通の一連の流れ全体、あるいは大部分を1つの企業が所有し、各業者がその下に結合されているシステムになります。
2)契約型システムVMS
生産から流通までの各段階のチャネルメンバーが、契約関係によって結合させるシステムで、主にボランタリー・チェーンやフランチャイズ・チェーンなどが挙げられます。
ボランタリー・チェーン
独立した卸売業や小売業が、大型チェーンなどに対抗するすべとし、業者同士の繋がりを持ち結合します。
卸売業者が主体とする場合や、小売業者が主体となるボランタリー・チェーンがあり、各業者は自己の経営を優先的にするものの、共同で仕入れや広告をする事でコストを抑えるなどを図ったり、情報やノウハウを共有化するなど、またチャネル・キャプテンとなる本部を立ち上げるなども行います。
ボランタリー・チェーン展開には主に4つの原則が設けられます。
1)共同の原則
各加盟店が共同活動を行い協力し合う
2)利益性の原則
本部を設け情報を共有化し機能させ、各加盟店が利益を確保していけるようにする。
3)調整の原則
共同化する事で、過度な競争関係にならないように調整を図り、適度な競争関係を保ち活性化させる。
4)社会貢献の原則
各店舗が立地する地域社会の貢献できる事を目指す。例えば、商店街の活性を目指し共同でイベントするなどもあります。
フランチャイズ・チェーン
生産から流通までのプロセスのいくつかの段階を「フランチャイザー」(本部)と「フランチャイジー」(加盟店)が結合し、基本的なシステムは、加盟店(卸売業者や小売業者)が本部の支援などを受け、契約をし対価として加盟店側が名前などの使用料を支払います。
この方法は、本部側としては、市場シェアの拡大を急速させる目的もあります。また加盟店同士は独立し、それぞれの経営方針で行う事が多く競争ライバルとなります。
主に、コンビニエンス・ストアや飲食店やサービス業などでこの形態が多く見受けられます。
3)管理型システムVMS
これは、生産から流通までの一連の流れを、チャネル・キャプテンとチャネル・メンバーが一丸となり強い協力関係を築き行います。
主にメーカー側がチャネル・キャプテンとなる事が多く、企業型VMSや契約型システムVMSの様に企業が所有したり、契約したりはせず、
強いブランド力や信用力によりチャネル・メンバーから支持を得て構成されます。
製造業者と流通業者の意思疎通が重要で、互いのニーズを満たし合える関係いが必要になり、手段として協力的に「資金援助、価格設定、プロモーション(販売促進活動)」の支援や協力を行います。
③水平的マーケティング・システム
これは、他業種で関連性ない、単数あるいは複数の企業が提携し協力し合い、消費者のニーズ、ウォンツを満たすべく、新たな市場開拓をしていき、またジョイント・ベンチャーを設立するなども行います。
例えば、ショッピングモール、コンビニエンス・ストアなど、購買意欲の高い消費者が集まる場所に銀行のATMを設置するなどがあります。
④マルチチャネル・マーケティング・システム
これは、1つの企業が複数のマーケティング・チャネルを構築し行います。それにより、ニーズやウォンツの違う顧客セグメントにアプローチしていく事が出来ます。
ただし、規模も大きくなるのでコストも大きくなり、またコントロールにおいても大変なものになってきます。
チャネル・コントロールとチャネル・メンバーの動機付け
流通チャネルの流れをコントロールするためには、チャネル・メンバーを主導し決定をしていけるチャネル・キャプテンが必要不可欠な存在となり、他のメンバーが最高のパフォーマンスを行うように促します。
そのためには、消費者のみならずチャネル・メンバーが互いのニーズやウォンツを理解し、それを満たしていくための支援や協力関係を築く事が重要になり、またチャネルキャプテンが他のメンバーに様々な影響を与え行動を起こさせる力をチャネル・パワーと呼ばれ、チャネル・パワーにはいくつかのタイプに分けられます。
①強制パワー
取引関係が友好でない時、強引な強制手段で、協力関係を求めます。例えば強大な製造業者(メーカー)であれば、製品をその業者に販売させない、契約を解除をほのめかすなど考えられます。
卸売業や小売業が力を持っていた場合、その製品を仕入れないや取り扱わないなどの手段をとったりもします。この方法はチャネル・メンバーからの反感を呼び、対立関係にもなり流通の機能が悪くなる事にもなり得ます。
望ましいパワーではないが今でもこの法方が多くで使われ存在しています。特に、強大な力を持つメーカーの下請けなどは従いざるを得なくなるケースがあります。
②報酬パワー
これは、特定の機能や役割を果たす事に対し、特別な報酬や手当を与える事でチャネル・パワーを発揮します。
ただし報酬だけでの繋がりは「額」によって関係性が崩れる事もあり、また慣例的にしてしまうと報酬に対し過度な期待にも繋がりかねません。なので役割や成果に対し一定的な報酬基準を設け、理解、納得させる必要があります。
③正当性パワー
これは、チャネル・キャプテンが指導し統制する事を、他のメンバーが「当然である」と判断する認識レベルのパワーになります。
分かり易く、消防隊員などの組織で例えると「隊長は、知識、経験も豊富で信頼が強いので隊員はその指示に従う」など当然の正当性によって従います。つまり周りのメンバーが、チャネル・キャプテンをリーダーであると、しっかり認識している限りは、正当性のパワーは発揮されます。
④専門性パワー
これは、チャネル・メンバーが尊重する専門的な知識を有している場合、リーダーがその知識を他のメンバーに提供する事で発揮できるチャネル・パワーになります。
ただし、強い信頼関係を築かなければ、他のチャネル・メンバーがその知識を習得してしまうと、影響力のパワーは弱くなってしまいます。なのでチャネル・キャプテンは、新たな専門知識の開発を模索していく必要があります。
⑤関係性パワー
チャネル・キャプテンが非常に尊敬されるポジションである時に発揮されるパワーで、他のメンバーから誇りに思われる事で一丸となり協力関係が築き上げられます。この場合はブランド力だけではなく、経営理念も含め他のメンバーに強い影響力を与えるパワーと強い信頼関係が重要になります。
チャネル・コンフリクト(衝突、対立、葛藤、競争など)の原因と解消
流通チャネルの構成にあたり、必ずしも友好な関係性を築けそれを保つ事が出来る訳ではありません。様々な要因からコンフリクト(衝突、対立、葛藤)が生じ、簡単に解決出来るものもあれば、困難を極めるものまで発生してしまいます。
これは、企業、業者間の流通機能だけに留まらず、個人間のでも当然起こり得る事にもなります。そしてそれらを放置すればシステムは崩れ、コストがかさむだけではなく利益機会までも失いかねません。なのでコンフリクト(衝突、対立、葛藤)が生じたら、その原因を明確にし解決策を模索し解消させる事が大切になります。
また、あらかじめ起こり得るだろう事柄をピックアップし未然に防ぐなど考えていかなくてないけません。主に考察していく問題は、チャネル内のコンフリクトのタイプ、コンフリクトの原因、コンフリクトの解消法方になります。
①コンフリクトのタイプ
主にコンフリクトのタイプには、3つに分けられます。
1)垂直的チャネル・コンフリクト
チャネル内の段階で製造業者と卸売業者、卸売業者と小売業者、製造業者と小売業者のメンバー間のコンフリクトになります。サービス、価格、広告、販売方法など方針の強制や互いに求める業者の機能の相違などでコンフリクトが発生します。
2)水平的チャネル・コンフリクト
チャネル内で製造業同士、卸売業者同士、小売業同士など、同じ段階のメンバー間で起こるコンフリクトになります。例えばフランチャイズ店にも該当しますが、加盟店同士の価格競争やサービスの質の違いなどがあります。
同じA社のコンビニエンス・ストアでも接客法が良い店舗と悪い店舗など、同じ看板を出していても質の違いなどにより苦情や客離れが起き、フランチャイザー(本部)と他のフランチャイジー(加盟店)にもイメージダウンが起こり、その影響により衝突が起きてしまいます。
また、卸業者同士や製造業者同士の価格の競争や市場シェアの競争により衝突する事もあります。
3)マルチチャネル・コンフリクト
これは、製造業者が同じ市場で複数のチャネルを使って販売する場合などに起こるコンフリクトになります。他のチャネルメンバーが大量仕入れをし低価格で販売をし、価格設定に差が出来てしまったりなどで衝突が起きてしまいます。
②コンフリクトの原因
原因となる事柄は様々なですが、主にコンフリクトが起こる原因としては以下の事柄が考えられます。
1)目的の不一致
例えば、販売業者が短期的に低価格でシェアを広げたいと望んでいるが、製造業者側は、高価格でブランドの確立を図りたいと望んでいるなどの目的の不一致が原因になり得ます。
2)役割と権利の不明確さ
流通機能の役割分担が明確でなく、業者間での機能の重複による時間や労力のロスが生じたり、また独占販売権を持たない販売店が勝手に流通させるなど、しっかりとした役割や権利が不明瞭になってしまう事が原因となります。
3)考え方の違い
目的の不一致も含み、例えば製造業者は「良い製品を作れば売れる」と考えていて、販売業者は、「売れる製品が良い」と考えていた場合、広告の仕方も変わってきます。この様な考え方の違いが原因になります。
4)強い依存
強力な力を持つ製造業者、メーカーに依存した取引だった場合や、取引業者が1つに限定されている業者は、その取引相手の製品や価格設定によって自社の運命が大きく左右される状況下にあります。その様な取引関係において生まれる不安や不満が原因になり得ます。
③コンフリクトの解消法方
主に「チャネル・コントロールとチャネル・メンバーの動機付け」での方法になりますが、それら以外にも様々な角度から考察していき、最適化していく事になります。